「寒い!」
「そりゃあ冬なんだから当たり前でしょ」
12月になり外の空気がすっかりと冷えた今日この頃。俺は幼馴染兼恋人であるかなめと今日も二人で登校をしていた。
「ところで創作物だと歩いて登校ってありがちだけど実際には公共交通機関なり自転車なりを使うパターンのが多いよね」
「いきなり何の話?」
「通学手段の話」
「また藪から棒に……でもまあ確かにアタシ達みたいに歩いて行ける範囲に高校がある人の方が少ないのかしら」
「はい。私もそう思います」
「急にペッパーくんみたいに無機質になった!?」
「だがしかしこの時期の登校は風が身体に染みるよ」
「そうね……ってアンタまだその手袋使ってるの?」
「ああ。ところどころ破れているけどまだ使えるし」
「でも空いたところから風が入って寒いでしょ」
「そんなことは……ある!でも物を大事にしろってばあちゃんが言ってたんだ」
「それは確かにそうかもしれないけど……何か思い出とかそういうのあるの?」
「いいや何も。そもそも兄貴からのお下がりだし」
はえー、という顔をかなめがしている。
「そういうかなめこそ手袋なくて大丈夫なのか?」
「アタシは寒いの得意だから平気よ」
「まあほにゃららは風邪引かないって言うしな」
「グーで殴る!」
「いったあ!まだバカって言ってないじゃないか!」
「言っているようなもんでしょうが!」
そんなこんなでやいのやいのと登校しながら騒いでいたら周りから冷やかしの声が聞こえる。こいつらも飽きないな。
「みんな、いつも応援ありがとう」
「どう考えてもからかってるだけでしょうが!バカはアンタの方!」
「困りますよお客さん、こんなに秀才溢れる顔をした人が他にいますか?」
「アタシには間抜け面にしか見えないわ」
「へーへー。その間抜け面さんと付き合っているのはどこのどなたでしょうね」
「う、うっさい!……くちゅん!」
「おい、やっぱり寒いんじゃ」
「これくらい平気よ、それよりさっさと学校まで行くわよ!」
「はいはい」
そういって早歩きになるかなめの身体は寒さで震えているようにも見える。そして世間はもうすぐクリスマス。……ふむ、となるとやることとしては一つか。
~数日後~
「ということであっという間にクリスマス当日になった訳ですが」
「どうしてこう、アタシ達の親は準備がいいのかしら……」
案内されたかなめの家のリビングにはご丁寧に二人分のごちそうが置かれており、鳴らせと言わんばかりにクラッカーが置いてある。
「そしてかなめの親御さんと妹さん、俺の親御さんと兄貴は俺の家でパーティーをしている、と」
偶然にも同い年で生まれた俺たちは幼い頃からずっと家族ぐるみの付き合いをしていた。今日もその一環という訳だ。
「しかもここ数年はなぜかアタシ達を二人だけにしてくるし……」
「まあいいじゃないか。こんな広々としたスペースで二人っきりになれる機会なんてあんまりないぞ」
「それもそうね……」
「ということで」
「「いただきます」」
テーブルに置かれているごちそうをいただく。クリスマスの鉄板であるケーキとチキンだ。
「今年もおいしいわ~」
「神に感謝……!」
「こういう時だけ都合いいんだから」
そういいながらもニコニコ顔でチキンを食べるかなめ。やはり今日もおいしそうに食べている。
「……何よ、じっと見て」
「いや、今日もうまそうに食べているなあと」
「いつもそれ言うわよねー。まあ悪い気はしないけど」
「そしてよく食べる」
「う、うっさい。いいじゃない、おいしいんだから」
「いっぱい食べる君が好き」
「はいはい、分かっていますよーだ」
実際、かなめの食べっぷりは見事なもので俺と同じくらいよく食べる。俺がどちらかというと小食ということもあるが。
「そしてケーキは相変わらず各々の好みのものが用意されている、と」
「ここまで用意周到だと逆に引くわー」
俺の方にはチョコレートケーキが、かなめの方にはショートケーキが乗っている。
「かなめー、イチゴちょうだい」
「ダメに決まっているでしょ!」
「じゃあ逆にイチゴ以外ちょうだい」
「どうしてそれでいけると思ったの……?」
「ふふん」
「なんでそこで誇らしげになるのやら……」
「しかしこうして気兼ねなく冗談を言い合えるのってなんかいいよな」
「八割以上アンタの方が言っているだけでアタシはツッコミしてるだけなんだけどね」
「しかしボケというのはツッコミがいないと成り立たない。そうだろう?」
「そうね、アンタの突拍子もないボケをさばききれるのはアタシくらいだわ」
「いつもありがとうございます(ぺこり)」
「こ、こちらこそ……?」
「さて、何やらいい雰囲気になったところでクリスマスの恒例のプレゼント交換といきましょうや」
「それ自分で言ったら台無し……っと、プレゼント用意するわね」
お互いにカバンからプレゼントを取り出す。それはちょうど同じくらいの大きさの箱だった。
「ふむ。サイズ的には変わらないが中は何が入っているのやら」
「ふふっ、開けてみて」
「よしきた先行は俺がもらおう」
かなめからもらった箱を開けると、中には手袋が入っていた。
「……おお、これは」
「そろそろ買い替えてもいいんじゃないと思って」
さっそく手に装着してみる。手を多い尽くしてくれる感触は久しぶりだ。
「これは……うれしいな。ありがとう」
「ふふっ、アタシが選んだんだから当然よ!」
「しかしこうなると俺のプレゼントが果たして喜んでもらえるかどうか……」
「さーて、このかなめちゃんを喜ばせるものは入っているかしら……って」
「……うむ」
かなめが開けた箱にはなんと手袋が入っていた。
「……何よ、考えることは一緒だったってわけ?」
「そういうことになるみたいですね」
「ふーん……そっかあ」
何やらうんうん言いながら手袋を装着するかなめ。
「アンタにしてはいいセンスじゃない」
「かなめ先生に鍛え上げられたおかげです」
実際、何年か前は奇妙な物をプレゼントしてはかなめを困らせていたっけ。
「よろしい。女の子を喜ばせる方法、分かってきたじゃないの」
「そりゃあ、かなめの困った顔とか呆れている顔とか怒っている顔とかも好きだけど、やっぱりかなめの喜んでいる顔が見たいからさ」
「なっ……そういうこと真顔で言うの、ずるい」
「いいだろう、クリスマスなんだからこれくらいは」
「もう……アタシも、その……うう、恥ずかしいからアタシは行動で示すわ!」
「えっ?」
「だから……来て?」
そう言いながら自分の部屋に向かい手招きをするかなめ。これは……ごくり。
~翌朝~
「いやー、清々しいほどに清らかな朝ですね」
「アンタなんでそんな平静でいられるのよ……」
あの後、夜中までにゃんにゃんした俺達はかなめのお母さんに起こされるまで一緒に寝ていた。もちろんあられもない姿も見られてしまっている。
「逆にかなめの方が慣れてなさすぎるという説がある」
「そ、そんなことないわよ!」
「それより手袋の方はどうですか」
「あ、うん。暖かいわ。えっと……ありがとう」
「どういたしまして。俺も暖かいよ」
「あっでも!まだちょっと寒いかなーって」
「おや?もう少し厚い方が良かったか?」
「そうじゃなくて!……もう、こういうことよ」
おもむろにかなめが手を握ってくる。
「おっふ」
「ふふん、いつもやられてるからたまには仕返しですよーだ」
「顔を真っ赤にしながら言われても説得力に欠けるんだが」
「う、うっさい!アンタも顔赤いでしょうが!」
「今朝トマトジュースを飲みまくったからその影響が出ているんだ」
「飲んでなかったでしょ!今朝一緒に食べてるんだから見え透いた嘘をつくなーっ!」
「わはは」
そこから周りに見つかって冷やかしされるまで今日もやり取りが続く。
そして今日の冷やかしの声は普段より一層騒がしいのであった。